研究概要

研究テーマ

有機半導体を用いたデバイス作製技術、および新原理デバイスの開発

有機薄膜トランジスタ(Organic Thin-Film Transistor: OTFT)とは有機半導体から構成される電子デバイスの一つで,ゲート電極に印加する電圧によって,ソース・ドレイン電極間に流れる電流を制御します.有機材料ならではの軽量性,柔軟性,素子作製に印刷プロセスが適用可能といった特徴を有しており,将来的には,有機ELディスプレイ/照明やRF-IDタグ等の駆動用デバイスとしての応用が期待されています.また,従来の無機半導体製造プロセスと比較して,製造時のエネルギー消費を大幅に削減できると試算されており,環境負荷を抑える意味でも大変重要な研究開発分野であると言えます.本研究室では,図に示したように,印刷法の一つであるスタンプによる転写技術を活用したOTFTデバイスの作製技術の開発を進めています.また,OTFTや他の有機半導体デバイスの電気特性制御において必要不可欠なキャリアドーピング手法やその評価技術についても多くの実績を有しています.

最近では,有機半導体デバイスの動作中に生じる発熱(自己加熱)に着目して,発熱が電気特性に及ぼす影響(例,負性微分抵抗現象など)を調べつつ,自己加熱の影響を能動的に制御できるような新原理デバイスの開発を試みています.

高分子状窒化炭素の構造/薄膜形成とそのデバイス応用

高分子状窒化炭素(pCN)は,図に示したように炭素と窒素のみから成る高分子材料群で,かつその組成によって導電型(p型/n型)が変化する新しい半導体材料です.金属フリーでかつ炭素と窒素のみから構成されており,省資源に対応する新材料として期待されています.一部の高分子状窒化炭素(g-C3N4)はグラフェンと同様な層状構造を有しており,二次元窒化炭素と呼ばれる場合もあります.しかし,グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドなどの他の二次元材料に見られるような比較的大きなナノシートを安定的に作ることが困難であり,pCNの研究例の多くはバルク状(粉末状)試料を対象としたものに留まっています.

本研究室では,前駆体の選択や作製条件の調整によるpCNの組成や構造制御,ならびに熱化学的気相成長(CVD)法を用いた薄膜形成を進めており,まだ未解明な点が多いpCN薄膜試料の電子物性計測を行うと共に,有機半導体とpCNとを組み合わせた薄膜ヘテロ接合の形成と光電センサ応用を進めています.将来的には,pCN 薄膜を他の電子デバイスへ活用する道を開拓すべく,研究を展開しています.

各種半導体ナノ構造を用いた,光エネルギー変換応用

近年,自然界に無限に存在する水や,植物から生産可能なエタノールなどのバイオ燃料,及び太陽エネルギーを積極的に利用して,水素(H2)を作り出す研究が盛んに展開されています.また,温室効果ガスの一つである二酸化炭素(CO2)を化学的に付加価値のある物質(メタン、メタノール、ギ酸など)に転換することで,先の水素生成も含めた,人工光合成に基づく再生可能なエネルギーシステムを構築する試みが各地で成されています.

本研究室では,図に示したように,バンドギャップが比較的大きい半導体材料(金属酸化物や高分子状窒化炭素(pCN)など)が有する光触媒/光電気化学機能を用いて,水溶液からの水素発生やCO2還元における動作機構の解明や性能向上を目指した研究を進めています.実際に,酸化物半導体のナノチューブアレイ構造やナノロッドを合成し,それらの試料における光触媒水素生成やCO2還元からの燃料生成などを測定し,それぞれの機能を高性能化していくための知見を数多く報告しています.また,最近では,これらの半導体ナノ構造を用いたマイクロプラスチックの光分解の試みも行っており,環境浄化に貢献する取り組みも始めています.